なぜシリコンバレーのエンジニアは仕事しやすい? – シリコンバレー・カンファレンス2009 を終えて

先日告知したように、シリコンバレー・カンファレンス 2009 に行ってパネリストの1人として話してきた。(関係者の方々お疲れさまでした。)

パネルセッションでは「渡米を決意した理由」として、日本の電機メーカーでの気合や精神論で何とかしようとし、残業につぐ残業を強いる生活に疑問を持ったということを挙げ、現在のアメリカでの生活との違いを紹介した。

参加者の中にはメーカーで働いていて同じような疑問を持っていた人も多かったようで、うれしいことにパネルセッションの後や懇親会で「何でアメリカはそれでうまくいくのか?」、「どうして日本メーカーはこうなんだろうか?」といった質問をたくさん受けた。

何らかの答を返していくうちに、シリコンバレーがどうしてソフトウェアエンジニアに働きやすい環境になったのか、自分の中でもそれまでぼんやりと思っていたことがまとめられた気がする。少し長くなるけど、セッションの補足としてまとめてみようと思う。

タスク中心(日本)、リソース中心(アメリカ)

日米2つの職場を経験して、大きく違いを感じたのは仕事のすすめ方。

日本での仕事のすすめ方は製品の発売というような大きなゴールがあって、その中で明らかになったタスクに対しリソースが投入されていく感じ。マネージメントは外注を使って人月をコントロールすれば何とかなると思っているので雑な仕事の振られかたも多い。 結果としてゴールがよく見えないままみんながずっと走り続けるようになる。できる人には次から次へと仕事が振られたり、自分の仕事が終わってもズルズルと残業してしまう傾向があるのもこの特徴。

対してアメリカでの仕事のすすめ方は限られたリソース内でできることを積みあげていく感じ。もちろん、ウラには最後にできあがる製品のイメージを考える人がいるのだが、エンジニアが辞めてしまうリスクもあるので無茶な仕事が来ることが少ない。 現場では面倒見なくちゃいけない範囲も小さいので作業が集中しやすいし、責任範囲もわかりやすいので仕事にメリハリが付きやすいのが特徴。

大きな社会的要因

アメリカがこのような仕事のスタイルになったのは、会社というもののありかたの違いがあると思う。アメリカで働く人にとって会社は定年まで働きつづける場所では決してなく、現在の自分が力を出す場所という考え方が一般的。

そのためアメリカでは転職がけっこう頻繁におこなわれ、転職市場がものすごく活発。 特にシリコンバレーはソフトウェア関係の会社が多いので顕著だろう。

会社やマネージャたちは、いい職場環境を作りエンジニアを繋ぎとめておくのが大きな仕事のひとつになっている。 会社の業績が悪かったり、仕事がきちんとこなせなければいきなりレイオフになるというマイナス面もあるが、このおかげでエンジニアに無理が言いにくい環境になっていると言えるだろう。

何でアメリカはこれでうまくいくのか

アメリカの開発スタイルはエンジニアに優しいが、その分製品リリース時の機能および品質が犠牲になっている。機能は上に書いたようにリソースに応じ積み上げられていくので、タイムリミットが来て間に合わなかったものはその機能抜きでリリースされることもある。

品質は開発単位が小さいので結合したときにボロが出ることが多いし、誰が直すという部分があいまいになりやすい。また、開発工程の最後の テスト&デバッグ では、みんな日本人ほど神経質じゃないので小さな問題はそのまま残されることが多い。

ただ、これら欠点はパッチやアップデートという方法があるおかげで、そんなに問題にならない。その分、エンジニアをうまく働かせより多くリリースすることで、市場のニーズにあったソフトを提供できるなどメリットの方が大きい。

これが、日本では機能や品質を気にしすぎてリリースが延び、開発の混乱やエンジニアは終わらないデバッグに疲弊してしまう。乱暴に言ってしまえばたくさん働くけど無駄に終わっている。

また、ターゲットにしている市場の大きさの違いもある。日本では、まずは市場を日本だけに絞り、うまくいけば海外進出といった方針が多いと思うが、初めから英語圈全体を相手にできるアメリカの会社は市場が数倍大きい。日本ではモノにならないものでもアメリカなら何とかなってしまうこともある。

とはいえ….

とはいえ、アメリカ、シリコンバレーでも職場によってはやはり働きにくいところもある(EAの残業未払いの記事)。 ウチの会社でも部署によっては大変なところもあるようだし、スタートアップなんかは人が少ないため、寝る間を惜しんで仕事というところも多いようだ。ただ、そんな場合も本当にイヤなら転職というオプションも残されている。

メーカーとソフトウェア会社ではやり方も違っててあたり前。ここで紹介したアメリカのやり方をそのままあてはめてるのは難しいと思う。ただ、ソフトウェアで勝負をするつもりなら、このような考え方の人達と勝負する気持ちでいないといけないだろう。

メーカーはこれまでモノを作ってナンボのところで生きてきたのでハードウェアを動かすためのソフトウェアという考え方が根底にあり、ソフトウェアの価値を低くみすぎている。最近はソフトウェアも複雑になり、その分手間もかかるようになってきた。少なくともソフトウェアを生かすハードウェアぐらいの考えかたができないと近いうちに破綻していまうかもしれない。


6 Comments

  1. 日米の違いの根幹的な部分は、エンジニア、特にソフトウェアエンジニアに対する敬意の多寡なんじゃないかな、と思う、実感として。

  2. ここでおっしゃっていたことは、20年前は、正に「アメリカの欠点」だったわけですけどね。なんでそれがソフトウェアに関しては有効に働いたのか、それがわかると面白くなりそうですね。

  3. moneyさん、

    そういう言い方もありますね。目に見えないソフトウェアに価値を見いだし、敬意を持てたかというのが大きな分岐点だったと思います。日本では未だに錬金術風に思われるところがあるので、その辺の意識改革も大事かもしれないですね。

    ゆきちさん、

    そうです。世界中でメイドインジャパンの製品がもてはやされたのは、日本のやりかたが当たりでアメリカのやり方ではうまくいかなかったんですよね。 それがソフトウェアではうまくハマったので発展したんだと思います。

  4. NIKKEI NET の IT+PLUS にカンファレンスの記事が出てました

    若者は今なぜシリコンバレーをめざすか JTPA会議報告
    http://it.nikkei.co.jp/internet/news/index.aspx?n=MMITbo000024032009

    担当したセッションのことも「示唆にとんでいる」と書いてもらえてうれしい限り。

  5. 今回の記事を読んで、10年以上メーカーが何も変わっていないことを再認識してしまいました。
    人が変わって、開発製品が変わっても、体質が何も変わっていないのは、メーカー全体
    ひいては、日本のソフトウェア業界全体の体質なんだと実感しております。

  6. 島田さん、

    カンファレンスでも「会社を変える」という話がありましたが、会社を変えるのは簡単にはできないでしょうね。そうなると自分の環境を変えるというのがひとつの選択肢になるのでしょうが、日本ではそれが簡単じゃないのがツライところ。 上もダメなことは認識しているケースは多いので新しいことを試して実績をつくって納得させるのがいいのかなぁ。私はトライしてうまくいかなかったのですが…。

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